5月の法話

”安心の旅路”

         

  私は、来月広島に行くことになりました。

       先日、父に「今度、広島に行くことになった」と申しますと、父は「そう言えば、おまえ小学生

  の時、 一人で広島に行ったの覚えているか?」と申しました。

    それは、私にとって、忘れることの出来ない、初めての一人旅だったのです。

  その当時、私は、寝台特急ブルートレインが大好きでした。休みになると、横浜駅まで友人と

  写真を撮りによく出掛けておりました。そのうち、写真だけでは飽き足らず、「乗ってみたい!」

  という気持ちを抑えることが出来なくなり、父に相談したのです。ところが、多忙である父は

  なかなか寺を空けられません。そこで、父は、「何とかしてやりたい」と思ってくれたのでしょう。

  当時、広島には叔父が暮らしておりましたので、その叔父を頼よれば、小学生の私でも、一人

  で行けるのではないかと考えてくれたのでした。最初、父からその案を聞かされたときは、ため

  らいましたが、憧れのブルートレインに乗って、友人達に自慢したい!という気持ちは強く、父に

  お願いすることにしたのです。

  私は、こうして無事に家に帰ることができたのですが、帰ってから、家族や友人に「ブルートレイ

  ンに乗って一人で広島まで行ってきた!」と、大威張りで自慢をしたものでした。しかし、今になっ

  てそのことをよくよく考えてみましら、私が自慢するようなことはひとつもなったなと思ったのです。

  当然、父が切符を買ってきてくれました。しかも、当日父が、東京駅まで一緒に行ってくれて、東

  京駅に着くと、出発するホームを案内し、汽車の私の座席まで一緒に付き添ってくれました。

  「広島の叔父さんには、宜しくお願いしますと連絡しておいたから、広島駅のホームまで迎えに

  きてくれているはずだから安心しなさい。おまえは何の心配もいらないから、この旅行を楽しみな

  さい」と言ってくれて父とは別れたのです。

  しかも、汽車の中では、車掌さんが、何度も私のところに来てくれて、「ぼうや、大丈夫か、朝起き

  れなくても起してあげるから、ゆっくりお休み」と声をかけてくれるのです。後から、聞いてみると、

  父が車掌さんに、「息子が、一人で広島まで行くので、何かと面倒をみてほしい」頼んでくれていた

  ようでありました。そして、広島駅に降りると、叔父さんが「英幸よく来たな!」と出迎えてくれたの

  です。

  その頃の私は、すべて自分でやって、一人で広島まで行ったように思っていたと思います。けれ

  ども、思い返せば、自分では何もしなかったんだなと気づいたのです。父のお陰で、一人で行け

  るはずのない私が、広島に行くことができたのです。

  阿弥陀如来様も私たち、生きとし生けるものの親なればこそ、お浄土へ行けるはずのない私を、

  何とかしてあげたい。必ず、浄土に迎えてあげたいとはたらいて下さっておりました。

  この苦しみに満ちた人生に、たった独りで生まれ、たった独りで死んでいかねばならない私たち

  に、安心して人生の旅を続けさせ、必ず目的地であるお浄土に着けるようにはたらいて下さって

  おりました。

  私も親となり、我が子を一人旅に出す、親の気持ちが少しわかってきました。

  やはり親は心配なんですね。阿弥陀如来様は、すべての生きとし生けるものを心配して下さって

  おりました。そして、既に、私の人生の旅も心配ないようにして下さっているのです。

  南無阿弥陀仏・南無阿弥陀仏…

             法徳寺 副住職 伊東 英幸